『Babyteeth』(『ベイビーティース』)を観た。

 俺は余命映画が苦手だ。余命映画が人気を博す度に、「世の中、悪趣味な人が沢山いるもんだな」と、自分の趣味を棚に上げてよく思ったもんである。昔は小児ガンに冒された子供を使った泣かせ2時間ドラマが頻繁に放送されていた。ウチの両親は好きで観ていたが、”辛み”しか残らないので俺は観なかった。”誰かが死ぬ”ことが確定していて、その”誰か”が迫りくる死の恐怖に苦しむ姿を観てどうしたいのよ?と。ホラー映画でガンガン人がぶっ殺されるのとはワケが違う……と思って。

 『Babyteeth』は余命映画だ。なぜ、この映画を観ようと思ったのか分からないが、なんとなく”これまでなかった明るい余命映画”という印象を受けたからだろう。

 主人公ミラの病名は明かされない。ただ余命幾ばくもない10代の女の子。両親の勧めでヴァイオリンを習っているが、どうにも気が乗らない。だってもうすぐ死ぬんだもん。

 彼女の父親ヘンリーはセラピスト。母親アンナは元ピアニストの専業主婦、夫のセラピーを受けて娘と自分の状況を見直そうとしている。おそらくは2人の精神状態は限界なのであろう。セラピーの時間は夫婦のセックスの時間となっている。

 加えて、娘のヴァイオリンの先生はアンナの元彼だし、ヘンリーは近所に住むノホホンとした妊婦に惹かれている。この奇妙な状況の中、ミラが連れてきた”彼氏”はドラッグディーラーのモーゼス。モーゼスは一家の事情を知らずやりたい放題。さんざん彼らを振り回すが、彼との邂逅はミラの残された人生を一変させていく。

 小さなエピソードの断片を繋ぎ合わせ、面白可笑しく奇妙で、時々殺伐とした一家の生活が描かれる。あまりにも断片的すぎて、余命映画感はほとんどない。

 「この子は、本当に死ぬのだろうか?」

 と思わせる程、死の臭いはしない。ただ、忍び寄るその影は確実に彼らを蝕む。モーゼスのために処方箋を偽造する、気軽に向精神薬を過剰摂取種してラリってみる等、様々な出来事が起こる。結局のところ誰もが「辛いけど気にしない」なぜなら「もうすぐ死ぬから」だ。ミラは時折、第4の壁を越えて「やってやった!」「私はもう死ぬ」など我々に心情をカメラへの視線だけで訴えてくる。まるで

 「ねぇ、信じられる? 私、もうすぐ死ぬんだよ?」

 と言っているかのようだ。

 切り刻まれた脚本は斬新である一方、常に断片的で人物描写の掘り下げが浅く、諸手を挙げて褒められる映画ではない。しかし、最後の10分間。すべての役者が全力で「死」と「遺」を表現する。モーゼス役のトビー・ウォレスはベネチアでマストロヤンニ賞を獲ったそうだが、そりゃ獲るわと。でも俺は、ベン・メンデルゾーンの「娘の死を察した」無言芝居が凄すぎて、泣きそうになりました。

 多分、日本公開されるでしょうが、下らないサブタイトルを付けられることなく公開されることを祈っております。

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