ギッチョくんが死亡フラグの話の中で『ディープ・ブルー』の話題を出していたので、思ったことをつらつらと。
『ディープ・ブルー』におけるサミュエルの早死は、「誰が死ぬかわからない」という一般の死亡フラグとは別のホラー映画独特の死亡フラグに基づいたものだ。死亡フラグというよりは、ホラー映画の典型的なクリシェで、「ロンドンはいつも曇っている」とか「橋田壽賀子のドラマの長ゼリフ」レベルのもの。ちなみにサミュエルは、この件について「俺はギャラが高いからな!」と一般的な死亡フラグを示唆するコメントを出している。
また当初、サミュエルに与えられた役は、最終的にLLクールJが演じる事になるコックだった。もちろんこのコックは最初から死ぬ予定ではあったが、サミュエルのエージェントが「コックの役は嫌だ」と言い出したために、設定が会社社長に変更になったという経緯がある。そして、この変更は、良い方向に作用した。クリシェといえども、会社社長がリーダーシップを発揮した矢先に喰い殺されるのと、生意気なコック爺が説教中に喰い殺されるのとでは、観客に与えるショックは段違いである。
サミュエルの役柄変更後も、コックの役は脚本に残り、LLクールJが演じることになっても早死する予定だったのだが、映画を見ればわかるように変更になっている。この理由は実に単純で「LLクールJが面白かったから」である。この辺りはDVDのコメンタリやIMDBのトリビアが詳しい。
折角なのでもう一つネタを。
このサミュエルの件に反して、ヒロインの科学者スーザンは当初、死ぬ予定ではなかった。これが変更になったのは、スニークプレビュー後だ。何故、彼女は死ぬことになったのか?それは、観客の顰蹙を買ったからである。
『ディープ・ブルー』では、高度な知能を得てサメが災厄を引き起こすのだが、これはスーザンが国際条約に違反した実験を行った結果である。つまり、スーザンが妙な実験さえしなければ、一連の惨劇は発生しなかったわけだ。
スニークプレビューの観客は、そんな悪者が生き残るなど、よしとしなかったのである。
「全ての元凶である彼女は、死ななければならない。」
制作サイドは取り急ぎ追加撮影を行い、結果はご存知の通り。ただ食われるだけでなく、因果応報と言わんばかりに、体を真っ二つに食い割かれる残酷な死にっぷりで観客も大満足というわけだ。
知識マウントみたいになって、恐縮なのだけど、死亡フラグという意味では、『ディープブルー』は、経緯が少し特殊な映画なのです。今日言いたいことは、そのくらいです。
ちなみに、ホラー映画における死亡フラグは、ギッチョくんが紹介していた『ホット・ショット』から遅れること5年、『スクリーム』でようやくネタにされることになりますが、あれは70年代末期から80年代初頭にかけてのごく一部のスラッシャー映画のみに適用される法則です。本当のスラッシャーは法則もへったくれもなく、人は平等に無価値で皆殺しが基本なのだ。本当はそっちを書きたかったのだけど、またそのうち……。