耳がかゆい

 耳がかゆい。右耳の入り口辺りと少し奥の方。「すわ!終わらぬ梅雨についにカビたのか!?」と不安になり、行きつけの耳鼻科に行く。行きつけと言っても、毎年末に花粉症対策のために鼻の粘膜をレーザーで焼く以外の用事で訪れることはない。だから看護士さんに「あら、氏家さん。今日は普通の診察なの?」と聞かれる。「はあ。それがですね、耳が痒いんですよ。梅雨のせいですかね、ついに耳穴がカビたのかと思って」

 笑わぬ看護士。コロナ対策でソファが極端に減らされ、妙にスカスカな空間となっている待合室。ふと壁に目をやると

 ”血液クレンジングやってます”

 と書かれた小さめのポスターが目に入り、ドキリとする。実はこの耳鼻科、ヘンテコだから気に入って通っているので、ひとまず見なかったことにする。ああ、そうそう。ヘンなんですよ。この耳鼻科。

 まず待合室ではスマホを使ってはいけない。使っても文句を言われたり、追い出されたりするわけではないんですけどね、「スマホばかりやっていると、人間ダメになります。掲示物でも見てゆったり過ごしましょう」とそこかしこに書いてあり、ものすごい圧をかけてくるんですわ。

 さらに待合室から診察待ち部屋に入ると、今度は壁一面に真っ黒な肺の写真はもちろん、黒くなった歯茎写真、さらに喫煙している芸能人の肌が荒れているだのと、徹底的に”喫煙者は今すぐ禁煙するか死ね!”という憎しみタップリのメッセージが張られている。でも、先生の対応は至って普通。そのギャップが異様で楽しい。コロナ禍に突入してから初めて訪れたが、病院の入り口には立て看板が設置されていた。

「不要不急の診察大歓迎!」

「味覚障害の方は診察お断り!」

 「矛盾……」もはや「お。おう」としか言いようのない状況。しかし、これでこそ、俺のお気に入りよ。ニンマリしながら診察してもらう。

 「あー、これはただの湿疹だねえ。痒み止め塗るしかないね!」

 わぉ!カビじゃない!よかった!水虫的なモノだったらどうしようかと思ったわ!

 「一応、奥までみますかね」

 スコープで先生と一緒にディスプレイを見る。「あ、なんか毛が入ってるね。こういうのが入り込んで痒くなったりするですよ!」

 ぶっとい毛が一本、画面にはっきりと写っている。まるで鼻からニュルリと顔を出した鼻毛の形相。「一応とりますか!」ぶっとい毛をピンセットでつまむ。

 「ああ、これ生えてるね。生えてるんなら、放っておきますね」

 「あ、ほんとだこれ生えてますね!引っ張られ感ありますもん。でもぶっといですねぇ」

 取ってほしかったが、真っ先に川内康範の顔が浮かび、彼の耳毛を思い出しているうちに

 「じゃあ、痒み止め出しておくね」

 そそくさと追い出され、診察が終わってしまう。まあ、とにかくカビじゃなくて良かった。歳をとると耳毛が生える。これは真実。あと今日、梅雨が明けた。よかった。

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