許される女、許されない女、見ているだけの男

 1996年。秋。居酒屋。

 『なんで、みんな私のことはせめるのに、ナッちゃんには何も言わないんですか?』

 後輩のショーコちゃんがで目の前で怒っている。彼女の怒りはもっともなのだーーが……。

 ショーコちゃんは数日前の夜、同じサークルの男、ノブミツの部屋に侵入。全裸でベッドに潜り込む強行手段に出た。しかし、ノブミツは彼女の誘いを拒否。さらにノブミツは、この二昔前で言うところの”夜這い”行為をサークル内に漏らしてしまったのだ。

 結果、ショーコちゃんは、その行為を聞きつけた男性陣から

 「いくらノブミツの事が好きでも、やり方ってモンがあるだろ!」

 と説教を食らったのである。”やり方”の問題とか、男女逆だったら洒落になっていないとかはさておき、”結局のところ、何もなかった”のだから、ノブミツが件を秘密にしておけば良かったのだがーー。何故、バラしてしまったのかノブミツよ。

 で、ナッちゃん。ナッちゃんはショーコちゃんと同じ年代。彼女はサークル内の同学年、そして一つ上ーーつまり俺の学年ーーー2世代に渡ったサークル内部の男のほとんどと一度は寝ている程度の暴れん坊であった。大学卒業後も含めて、彼女と寝なかったのは俺を含めて4人(誰か曰く「お前は半分食われているから違う」とのこと。詳細は後述)、男数は2世代合わせも10人以上はいたので、かなりの悪食である。

 そういう女は大抵”サークルクラッシャー”と呼ばれるが、ナッちゃんはクラッシャーではなかった。どういうわけか、ナッちゃんと付き合った(寝た)男たちは、別れた後もナッちゃんと普通に接し、ナッちゃんと付き合った男たち同士も仲違いすることもなかった。

 ショーコちゃんは、ナッちゃんの暴れっぷりと比較して、たった一度、少しはっちゃけたくらいで、何故、サークルの男どもは揃いも揃って、自分に説教をたれてくるのか?と俺に問うているのだ。

 言ってしまえば、ルックスの問題に終結してしまうのだが、改めて聞れてしまうと「それはナッちゃんのほうが可愛いからでしょう」とは言えない。

 「そうねぇ、ナッちゃんのほうが自然だったんじゃないの?色々と。」

 「だって、ジョージさんだって、ナッちゃんの”襲撃”にあったことあるんでしょう?」

 ああ、そうだった。去年、安比高原のロッジに泊まったときだった。昼は皆とスノーボードに明け暮れ、夜は酒をカブ飲みしてヘロヘロになり、疲れ果ててベッドでフニャフニャになっていた。俺が寝ていたのは2段ベッド上、下には後輩のアツシが寝ていた。このときナッちゃんはアツシと付き合っていたのだが、ごそごそ音がしたと思ったら、ナッちゃんが俺の布団に潜り込んできたのだ。

 「おい、アツシは下だぞ」

 「ここでいい」

 「はい?」

 と返すや否や、突如ブチュとキスをしてきたのだ。一気に吹きあがる性欲。下にアツシが寝ているという背徳感、酒で緩みきった脳、思考が歪む。だが、このとき、俺は勝った。自分には彼女がいる。アツシとは仲良しだ。ここでナッちゃんとやってしまうわけには行かないと。この件は、後で拗れて大変なことになるのだが、それはまた別の機会に。話を戻す。

 「あるけどねえ、やられた方は、良い気分は・・・うーん。」

 「よくない?」

 「よくないねえ」

 「でも、分かってますけどね!」

 キリッとショーコちゃんは言う。

 「結局、ナッちゃんの方が可愛いって話でしょ?」

 なーぜーきーいーたーーーーー!知ってるなら、分かってるなら、何故聞いた?俺が気の利いた事を言える先輩だと思ったか?消火器をまき散らしたり、酔ってもいないのに、面白そうだからという理由で服を着たまま海に飛び込んだり、工事現場から巨大三角コーンを盗んだり、中古車屋から電飾を盗んだり、でかい電子レンジを作って動物の死体を焼いたりするキチガイだぞ!バイト先ではゲラゲラ笑いながら「どすこいシスターズ」を平置きするような男だぞ!安パイか?何か?彼女がいる俺は安パイか?一緒に酒飲んでも安全なバカでアホな安パイか?あー、そうですかそうですか!とは言いませんでしたが、21歳の俺にゃあ

 「そうなっちゃうよね」

 としか答えられず。でも今、あの居酒屋に戻っても何か気の利いたことは言えたか?と言えば言えなかっただろうなあと。

 今、ショーコちゃんは何をしている知らない。ナッちゃんとは7年前、ノブミツ家で開催された同窓会にて架電。地元群馬で実家暮らしであること、結婚は既に諦めているが、子供は欲しいので子供だけ作れないかトライしたものの巧くいかなかった。加えて、親が外出を許してくれないとも言っており、一体、彼女の身に何が起こっているのか心配だが、心配になったーーだけである。多分、彼女は許される続けるからだ。

※ちなみに、盗んだ電飾は返しました。三角コーンは未だに大学の部室にあると思います。

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